夜、夕飯を終えてもまだ少し余裕のある日。
娘と二人、自転車で銭湯に向かった。
春の夜は少し肌寒く、でもどこかワクワクする空気が流れている。
自転車を漕いでいる途中、娘がふと空を見上げた。
「つきが まんまるだ!」
指さす先には、綺麗な満月が浮かんでいた。
私はつい笑ってしまう。
「ほんとだね」と応えながら、どこか嬉しくなる。
月が綺麗なだけで心が動く。
そんな感受性を、できるだけ長く持っていてほしいと思った。
「11番の下駄箱」と「14.4キロの成長」
銭湯の暖簾をくぐり、いつもの恒例──下駄箱の番号を決める時間が始まる。
「11ばん!」
保育園での布団の番号が11番だった時がある。
その時から、番号を選ぶときは必ず「11」を選んでいた。
着替える前に、体重計に乗った娘は「14.4キロ」。
着実に、確実に、育っている。
ほんの数ヶ月前まで13キロ台だったはずだ。
日々の忙しさに埋もれて気づけないけれど、数字は正直だ。
湯船の中で、心がほぐれる
湯気の立ちこめる脱衣所を抜けて、湯船へ。
肌寒い夜にしみる、あたたかいお湯。
娘はいつものように、少しビビりながら(熱いお湯が苦手)湯に入る。
「あったかいね〜」
その言葉に、こちらまで肩の力が抜ける。
毎日、仕事に家事に追われ、気づけば呼吸も浅くなっていた。
でも、こうしてただ湯に浸かり、娘と目を合わせて笑うだけで、なにかが溶けていく。
「ゆっぽ君」と、飽きない読書
風呂上がりには、冷たい飲むヨーグルトを1本ずつ。
「ヨーグルトなら飲める!」と笑いながら、ゴクゴクと飲み干す娘を見て、幸せってこういう瞬間に宿るのだと思う。
休憩スペースでは、いつも通り「ゆっぽくん」を手に取った。
「これ、よんで!」と隣に座る。
もう何度も読んだ絵本だ。
でも彼女は、毎回まっさらな気持ちで読んでいるかのように、真剣な目でページを見つめる。
読み終えたあと、ぽつりと「いい ほんだね」とつぶやいた。
5歳なりに、何かを感じとっているのだろう。
中野の夜、未来の話へ
帰り道。自転車にまたがり、中野の静かな夜道を走る。
ネオンに照らされた中野サンプラザが見えたところで、私はふと口にした。
「あのビル、建て替えるかもらしいよ。でも、実際に建て替えが終わるのは10年後なんだって」
「10ねんご?」
娘は少し間を置いて考えた。
「10ねんごって、あたし なんさい?」
「15歳だね。高校生だな。そこのローソンでバイトしてるかもな〜」
そんな冗談を言うと、彼女は少し笑いながらも、考え込むように答えた。
「そっか〜… はたらいてるかもしれないのか」
その声には、ほんの少し現実味がこもっていた。さらに彼女はこんなことを言った。
「お父さんは、もう はたらいてたんでしょ?」
「うん。高校1年生のとき、ファミレスでバイトしてたよ。君も、すぐそうなるかもね」
「もう おとなだね」
静かに返されたその言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。
みんなどんどん大人になっていく。
娘も、そしてたぶん、私も。
10年後、彼女はどこで何をしているだろうか。
私はどこで何をしているだろう?
でも願わくは、10年後の月がよく見える日に、こうしてまた一緒に銭湯に来られていたら嬉しい。
家に着いた娘が「銭湯よかったね!」と満面の笑みで言う。
私は「うん」と頷いた。
親子で楽しむ銭湯時間のすすめ

日々忙しいと、親子でゆっくり会話する時間は意外と少ない。でも、銭湯のような場所は、自然と心と体がゆるむ。「今日どうだった?」「どれにする?」そんな一言が、親子の距離を自然に縮めてくれる。
とくにこんなタイミングはおすすめ
🛁 平日の夜、20時前後の空いている時間
🚲 帰宅前に少しだけ寄り道できる日
🌕 満月や天気のいい夜は気分が上がる
📘 「お気に入りの絵本」が銭湯にあると長居できる
🧴 飲みものやタオルを忘れずに持参!
(おまけ)よくある3つのナゾ
ふりかえりと、すこしだけ心のメモ
思い返せば、何気ない夜の出来事だった。
でも、満月を見て喜び、銭湯での時間を楽しみ、未来について話したこの一夜は、確かに記憶に残る日だった。
「今」を大事にすると、「未来」がもっと楽しみになる。
娘の成長にただ驚くのではなく、その成長を一緒に感じながら、自分自身も変わっていけたらと思う。
そして10年後──「あのときの月、覚えてる?」と話せる夜があったら、きっとそれだけでいい。