仕事や家事に追われて、なかなか子どもの習い事に付き添えない日々。
うちも、スイミング教室は妻の担当だった。
でも、数ヶ月ぶりにその現場を見て、思い知った。
子どもは、ちゃんと見てくれているかを、驚くほど敏感に感じ取っている。
そして、見られることで育つのだと。
娘の叫び声「つめて〜!」には、そんな成長の証が詰まっていた。
久しぶりの“プール参観日”
数ヶ月ぶりに、娘のスイミング教室を見に行った。
我が家では、プールの付き添いはいつも妻の担当。
だから、娘にとっても「お父さんが見に来る」というのは、ちょっとした“特別なこと”なのかもしれない。
「明日は見に行くよ」と伝えたのは、前日の夜だった。
眠る前の布団の中で、静かに話しかけたつもりだったのに、そのひと言で娘の表情がパッと輝き、次の瞬間には「やったー!」と全身で喜びを爆発させた。
「見に行くよ」というたった一言が、こんなにも子どもの心を満たすのか。
親が思っている以上に、子どもは“見てもらうこと”を喜んでいるのだと、改めて気づかされる。
曇ったガラス越しでも伝わる、まっすぐなまなざし
当日。
見学席からプールを覗き込むと、案の定、ガラスが曇っていて中の様子がはっきりとは見えない。
それでも、遠くに見える小さな姿の中から、娘を探す。
見覚えのある小さな姿を見つけた。
ゆっくりと歩いてこちらに向かってくる。
顔をあげて、ガラスの向こうの私に気づくと、パッと笑顔になり、手を振ってきた。
この子は、ちゃんと“見られていること”を感じ取っている。
曇ったガラス越しでも、手を振るその表情は曇りがない。
がんばる姿が、いちばんまぶしい
見学スペースからは、全体を俯瞰するように見ることができる。
同じクラスには15人ほどの子どもたちが並んでいて、隣のクラスには5人ほど。
人数の差もあるが、隣のクラスの子たちは明らかにレベルが高い。
「まだあっちのクラスには行けそうにないな」
そんな思いがよぎるが、ふと視線を戻すと、娘は水に潜ったり、バタ足をしたり、仰向けで進んだりしている。
まだまだフォームは安定しないし、時には先生に手を添えられながらだけど、それでも一生懸命に取り組んでいる。
ときどき、ふとこちらを見て手を振ってくる。
「がんばってるな」
「楽しそうだな」
「成長してるな」
何も言わずとも、ガラス越しの30分で、伝わってくるものはたくさんあった。
プールサイドで響いた、娘の“つめつめ”コール
スイミング教室の練習は、順番に進んでいく。
終わると子どもたちはプールサイドに腰掛けて少しずつ横へずれていく。しかし、狭いスペースに多くの子どもたちがいるため、プールサイドがぎゅうぎゅうになっていた。
先生が「つめつめして〜」と、何度も呼びかける。
その声は優しいけれど、どこか必死。
子どもたちはそれなりに詰めているつもりなのだろうが、スペースはなかなか空かない。
そんなときだった。
「みんな〜!つめて〜〜〜っ!!!」
娘の声が、プールの反響音に乗って、大きく響いた。
あまりにも大きく、そして堂々としたその声に、思わず吹き出しそうになる。
小学校低学年くらいの子たちも混ざるなかで、こんなに大きな声で指示を飛ばすのは、うちの娘だけだった。
正義感からか、はたまた、自分が座る場所を確保したいだけなのか──。
真意はわからないが、こういう“独自の行動力”は、昔から変わらない。
先生がすぐ近くで再び「つめつめして〜」と声をかけたとき、今度は娘が先生に向かって、何やら真剣な顔で言い返していた。おそらく「わたし、もうみんなに言ったもん!」とでも主張していたのだろう。
プールの時間が終わり、更衣室から出てきた娘はにこにこと駆け寄ってきた。
「久しぶりに見たけど、上手になったね!」と声をかけると、少し胸を張って、「こんなにうまくなってるとは思わなかったでしょ?」と得意げに言う。
その顔には、たしかに少しの自信と、「見ててくれたよね?」という期待が滲んでいた。
「そうだね、いろいろびっくりしたよ」と返すと、満足そうに笑った。

📝チェックリスト:子どもに伝わる“見守り方”5つ
👀 見学時はリアクションを忘れずに
曇ったガラス越しでも、目が合えば笑顔で手を振るだけで伝わります。
🧏♂️ 途中での口出しは控えめに
「がんばれ!」の声がけも時にはプレッシャーに。見守るだけが正解の時も。
📅 たまにでいい、でも“特別な日”として伝える
「明日は見に行くよ」の一言だけで、子どもの心はぐんと動きます。
🧼 終わったあと、シンプルに褒める
技術より、姿勢や笑顔、声かけなど“がんばり”を認めるのが効果的。
🎤 子どもなりの“主張”を尊重する
たとえズレていても、「言った」という行動自体に意味があると考えて。
(おまけ)よくある3つのナゾ
ふりかえりと、すこしだけ心のメモ
あの日、私は“見ていただけ”だった。
でも、見ただけで、たくさんのことが伝わった。
娘は、ただ泳ぐだけでなく、クラスを引っ張ろうとしたり、先生に主張したり。
そんなふうに、少しずつ“自分の輪郭”をはっきりさせている。
私たち親ができるのは、時には見守り、時には背中を押すこと。
でも一番大事なのは、ちゃんと「そこにいるよ」と伝えることなのかもしれない。