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自転車に乗れた日、止まれなかった日

bayabaya

「怖い」「無理」は言わない約束

週末、お台場の広場で開かれていた小さな自転車教室に参加した。
参加者は6人ほど。

決して大きなイベントではなかったが、教えてくれたのは「これまでに1万人以上を自転車に乗せてきた」というベテランの先生だった。その肩書きだけで、どこか安心できた。

教室が始まると、先生は参加者に説明した。

「今日、大事なことを二つ言います。『怖い』と『無理』は、今日は絶対に言わないこと。これがルールです」

娘は少し緊張した顔つきで、小さくうなずいた。

大事なのは前を向くこと

最初はいきなり乗ってこぐわけではなかった。
まずは、スタンドを立てたまま自転車にまたがり、前を見ながらペダルを回す練習。

「前見て!前!下じゃないよ!」
先生の声が響くたびに、娘の目線が少しずつ上がっていく。
次のステップでは、先生が後ろからハンドルの端を持って押してくれた。

後ろの荷台ではなく、ハンドルを支えるというのが練習のコツらしい。

娘は最初こそおそるおそるだったが、周囲の子どもたちが一緒にがんばっている姿を見て、気持ちが前に向いたのか、次第に顔が変わってきた。

実は私も以前、何度か自転車の練習に付き合ったことがある。でもその時は、すぐ「無理」と言ってあきらめていた。

それが今日は違っていた。
次は両肩を後ろから支えて走る段階。

「多分、今日乗れるようになると思いますよ」
先生が私にそう囁いてくれた。

支える手を離すと前へ進んでいった

そして、いよいよ実践。

先生が後ろから肩を持ち、一緒に走る。
そして――そっと手を放す。

倒れずに進んでいる。明らかに、誰の支えもなく。

「え?今、一人でこいでたよ?」
娘は目を丸くして驚いた表情を見せた。

「じゃあ、お父さん、今度はお父さんが肩を持って走ってあげてください」
先生に促され、今度は私が後ろから支える番になった。

娘の足が、これまでよりも力強くペダルを漕いでいる。
「よし、離すよ。こいで!」
肩から手をそっと放すと――娘はまっすぐに走り出した。

そのスピードは、走って追いかけないと追いつけないほどだった。
「すごい!漕げてるよ!漕げてる!」
「いいぞいいぞ!前見て前見て!」

夢中で前を見つめる娘の顔は、いつになく真剣。
少し舌が出ているのは集中している証拠だろうか。
そして、私は……娘ばかりを見ていて、前を見ていなかった。

そこにはテントがあった

「ストップストップ!!」

叫ぶ間もなく――
ガシャーン!!

そのまま受付テントに突っ込んでしまった。。
「いたいーーー!」

娘は大泣き。
でも、数分後には涙をぬぐって、こう聞いてきた。
「もういっかいやっていい?」

うん、やっぱり今日は違う。
「もちろん!自転車乗れたね!すごいじゃん!止まれなかったけど!」

少し睨まれた。

娘のなかで「できない」が「できた」に変わった瞬間だった。
そして私も、それをちゃんと隣で見届けられた。

今度は止まる練習だな。

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ばやばや
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5歳の娘と「ばやばや」な毎日。迷ったり笑ったり、ときどき立ち止まりながら子育てに向き合っています。娘との日々を父親目線でゆるく綴っており、文章や画像にはAIツールも活用していますが、すべて実体験に基づいています。「あるある」「うちもそうかも」と感じてもらえたら嬉しいです。
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