週末、お台場で娘とふたり、小さな自転車教室に参加した。
「こわい」「むり」は言わない。それがこの日だけの特別なルールだった。
たったそれだけで、本当に変わるのか?
……答えは、想像以上だった。
わずか1時間後。娘は補助輪なしで走り出していた。
そして、私はその瞬間を、肩の感触ごしに、ちゃんと感じていた。
🎧ブログの出来事をそのまま音楽にしました。 曲はこちら ↓
「自転車教室ってどうなんだろう?」
実は今回の教室、事前にかなり迷った。
娘はこれまで何度か「自転車のりたい」と言っていたが、いざ練習を始めるとすぐ「むりー」と言ってあきらめてしまうタイプ。
こっちもついイライラして「もういいよ」となってしまうのは、どこの家庭でも“あるある”だと思う。
だからこそ、「プロの教室」に一度お願いしてみたかった。
ただ、参加者はわずか6人。広場の片隅に立った簡易テントと、先生の軽い口調。
正直、「これで本当に乗れるのか?」と、少しだけ疑っていた。
でも、その先生がひとこと、開口一番こう言った。
「今日、大事なことを二つだけ言います。『こわい』と『むり』は言わない。これがルールです」
それを聞いた娘は、小さくうなずいた。
緊張の面持ちではあるけれど、どこか目の奥に「覚悟」みたいなものが宿ったようにも見えた。
「前を見て!下じゃないよ!」
最初はいきなり乗るのではなく、スタンドを立てたままの自転車にまたがり、前を見ながらペダルを空回しするところから始まった。
これが意外と重要らしい。
「前見て!前!下じゃないよ!」
先生の声に、娘の目線が少しずつ上がっていく。
ペダルの回転、姿勢、目線。それが連動し始めると、身体が安定してくるのだとか。
その後、先生が後ろからそっと肩を支えて押してくれる。
ポイントは「荷台じゃなくて、肩」。
つまり、バランスは本人に任せつつ、安心感だけ与える補助。
少しずつ、娘の顔つきが変わっていった。
最初はおそるおそるだったのに、周囲の子が頑張る姿に刺激されたのか、気持ちが前に向いてきたのが分かる。
私も以前、家の近所で何度か練習につきあったことがある。
でも、あのときはすぐ「むり」と言ってやめてしまった。
それが今日は──違った。
「今、一人でこいでたよ?」
「多分、今日乗れるようになりますよ」
先生がそっと囁いた。
まさか、と思ったけれど……そうだった。
先生が肩を持って一緒に走る。
そして、次の瞬間。手が放される。
「あれ……?進んでる?」
娘は、気づかぬうちに、自分の力だけで前に進んでいた。
「え?今、一人でこいでたよ?」
本人が一番驚いている。
「じゃあ、お父さん、今度は支えてあげてください」
そう先生に促され、私が肩を支える番に。
自転車の後ろを追いかけながら、あえて一歩遅れて手を離してみる。
娘はまっすぐ、力強くペダルを漕ぎ続ける。
「すごい!こげてるよ!前見て!」
夢中で声をかけながら、私は思った。
──ああ、今、まさに“できない”が“できた”に変わる瞬間なんだ。

でも、止まれない
ただ、問題はあった。
娘は前だけを見て、勢いよく進んでいった。
でも──止まる方法はまだ知らない。
「ストップストップ!」
私が叫んだその先には、教室の受付テント。
ガシャーン!!
派手な音を立てて、突っ込んだ。
「いたいーーー!」と大泣き。
でも、数分後。涙をぬぐいながら、彼女はこう聞いてきた。
「もういっかいやっていい?」
──その言葉が、いちばんの成長だったと思う。
「止まる」を教えるのも、今日からの課題
「自転車乗れたね!すごいじゃん!止まれなかったけど!」
そう言うと、娘に少し睨まれた。
でも、確実に、彼女の中で「できない」は「できた」に変わった。
それは、親である私にとっても、大きな転機だった。
今日からは、次の課題。
今度は“止まる”を、楽しく、失敗しながら、身につけていく。
子どもの成長に必要なのは、「成功」よりも「もういっかいやってみたい」と言える空気なのかもしれない。
自転車練習のチェックリスト
✅ まずはペダルを空回しで慣れさせる
サドルに座り、スタンドを立てたままペダルを何度も回す練習からスタート。視線を前に保てるだけで体のバランスが安定します。
✅ 「こわい」「むり」は封印ワードに
その日だけでもOK。ネガティブな言葉を言わないと決めることで、自分の思い込みを一歩だけ手放せるきっかけになります。
✅ 支えるなら「肩」や「ハンドルの端」を
荷台を持つと親がバランスを操作してしまいがち。あくまで自分でバランスを取る感覚を育てるのがポイント。
✅ 声かけはポジティブに、少なめに
「前見て!」「こげてるよ!」など、短く明るいワードが効果的。失敗しても「惜しい!」の一言で次に繋げられます。
✅ 止まる練習は“遊び化”がカギ
ブレーキを握ったら「にゃー」「わん!」など好きな動物の鳴き声を出す遊びにすれば、自然と止まる習慣が身につきます。
(おまけ)よくある3つのナゾ
振り返りと気づき
自転車の練習って、親もつい口出ししたくなる。
でも今日の経験で気づいたのは、「口よりも、支える手」のほうが伝わるということ。
そして、子どもが自分で「もういっかいやってみたい」と言える空気をつくること。
それが、いちばん大切な“伴走”なのかもしれない。
次は「止まる」練習。
また失敗して、また笑って、きっとまた前に進めるはずだ。