うんこドリルで足し算に火がついた日

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「うんこドリル」から始まる、新しい扉

「らぶあんどきゅーとが無い!売り切れたんだ!」

本屋で娘はそう言った後、店内をウロウロしながら手に取ったのは、まさかの「うんこドリル」だった。プリンセスとウンコ、あまりにも世界観が違いすぎて、頭が追いつかない。

でも「やってみる」と言ったのは彼女自身だった。

その日は、偶然立ち寄った書店での出来事だ。目的は『ディズニープリンセス らぶあんどきゅーと』。しかし店頭には見当たらず、代わりに何かを…と探していた時、ふと私が手に取ったのがこの「うんこドリル」。

「お父さん、これ見てみて」
「うんこ…?」
「やってみる!」

好奇心か、あきらめの境地か。でも、たしかに目は輝いていた。

逆さの数字と、ひとり言の時間

最初は数字の形がなかなか安定しなかった。
特に「4」「6」「9」は、よくひっくり返って登場する。

それでも彼女は、諦めずに続けた。ページをめくるごとに、すこしずつ数字が整っていく。
その姿に、見ているこちらの方が感動してしまう。
やがて、「お父さんはあっち行ってて」と言い出した。

ああ、一人でやってみたいのか。
そう感じてリビングの端っこに行ってみたが、しばらくするとテーブルで一人で喋っている。

「2タス8は10にきまってんじゃん!」
「4タス3は7か。また7じゃん!」
「あーかんたんかんたん」

ひとりごと…というより、もはや実況中継。
でも、それがきっと彼女にとっての確認作業なのだと思う。「合ってる?聞いてた?」という気持ちが、どこかに含まれているのかもしれない。

手のひら計算と、「あかちゃんじゃないもん」

「おとうさん、6やって!」
「?……こう?」
と、指で「6」を作ってみると、「そうそう」とうなずいて、「6タス4」を解き始めた。

手のひらを使った計算。
なるほど、わからないときに助けを求める方法としてはすばらしい。
教えるよりも、「自分で聞く→教えてもらう→納得する」という流れの方が、きっと身につく。

その後、お風呂に入り、上がってきた脱衣所でのこと。
裸のままでウロウロしていた娘に、つい「早くオムツとパジャマ着て」と言ってしまった。

すると、「オムツじゃないよ!もうあかちゃんじゃないんだから!たしざんもやってるんだから!」

「パンツを履いて」をつい「オムツを履いて」と言い間違えてしまうのだが、それに対するこの的確すぎるツッコミ。
“もう赤ちゃんじゃない”という自覚と、誇りのようなものが見え隠れした。

「明日もやる!」と眠る夜

風呂上がりには、また机に向かってドリルを開いた。
彼女の目は真剣そのもの。
できることが増えていく手ごたえ。
それがきっと楽しいのだろう。

そして夜。
「明日もはやくおきて、うんこドリルやる!」
と布団の中で言って、すやすや眠った。

プリンセスから「卒業」し、足し算の世界へ――といってもジャンルがかなり違うのだが、何かが切り替わった瞬間を見たようだった。

子どもにとって、「できた」は、強烈な自信になる。

見守る親の葛藤と、次なる壁

ただ、私は知っている。
P49に、試練が待ち受けていることを。

「8タス5」など、10を超える“繰り上がり”の足し算。
5を2と3に分けて、10を作ってから残りを足すという考え方――果たして、これを彼女がどう乗り越えるのか。

正直、想像できてしまう。
「なんでーーー!」と、目を見開いて訴えてくる姿が。

「これ、ぜんぜんちがうじゃん!」
「もう、わかんない!」

きっとそんな日がくる。でも、それも成長のひとコマだ。

子どもが“自分でやる”を選んだら

今回の出来事で気づいたことがある。
「一人でやる」と言い出したとき、親がつい手や口を出してしまうことがあるけれど、そこでグッと見守るのが、実は一番いいタイミングだったのかもしれない。

子どもは、助けてほしいときは自分から言う。
逆に言えば、「聞かれるまでは見守る」が正解だったのだ。
そして、成功体験を“自分の力でつかんだ”と思えたとき、子どもは一気に次の段階へと進んでいく。

「火がついた」と感じたその日、実は彼女の中で、大きな切り替わりが起きていたのだろう。
そして、繰り上がりの足し算でその火が消えないことを祈っている。

✅足し算ドリルのやり方・見守りチェックリスト

🟡 最初は数字の形が多少おかしくてもOK
🟢 ひとり言や声出し計算は、理解の証
🟡「やって」と言われたら指で数字を示す
🔵 成功体験は小さなことでも全力でほめる
🟢 繰り上がりに入ったら、「10を作ってから残りを足す」流れを絵や手で示す
🟡「わかんない!」と叫んだ時は、共感から入る(例:「むずかしいよね」)
🟢 ドリルに飽きたら無理せずストップ。やる気が戻った時に再開すればいい

(おまけ)よくある3つのナゾ

足し算っていつから始めるのがいいの?

5歳ごろから自然と数への関心が高まる時期。本人が「やりたい」と思ったタイミングがベストです。

うまく教えられないとき、どうしたらいい?

無理に説明せず、子ども自身の気づきを待つのもひとつの方法。困ったときは「指で数える」「おはじきで見せる」などが有効です。

うんこドリルって、本当に効果あるの?

子どもが笑えば、それだけで効果あり。内容より“やる気の導火線”として、うんこは意外と優秀です。

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