自ら決断した“早起き”に見る、成長の兆し
子どもが自分の意志で「明日は早く起きる」と宣言する場面はそう多くない。
通常は親の声かけによって布団から引きずり出される毎朝が常であり、それが子育ての“日常”というものだろう。
しかし、今回ばかりは違った。娘は前夜、「明日は目覚ましで起きる」と力強く言い切ったのである。
その言葉の背景には、ある明確な目的が存在していた。
彼女が選んだ“本当のウェディングドレス”
翌日、妻と娘はキッザニアへ出かける予定である。
今回で何度目になるのかもはや曖昧だが、娘のテンションは過去一番に高い。
「明日は、ウェディングをやりたい!」
そう言いながら、目を輝かせていた。
「前にやったんじゃなかったっけ?」と尋ねると、即座に「ちがう!」と返された。
聞けば、以前は青いドレスを着ただけで、それは彼女の中の“ウェディング”ではなかったという。
「ウェディングドレスって、もっとシンプルなやつでしょ?」と続けると、「そう!ふわふわじゃなくて、しろくてシンプルなやつがいいの!」と返してきた。
要するに、彼女が思い描く“本物の花嫁衣装”をまだ体験できていないということなのだろう。
そのこだわりに、「なるほど」と感心せざるを得なかった。
服に対する認識や美的感覚が、すでに少しずつ育っているのだと実感した。
「早く起きなきゃ着られない」から始まる時間設計
どうやらそのウェディング体験は人気職種であり、朝イチで申し込まなければ枠が埋まってしまうらしい。
その事実を娘は理解しており、だからこそ「一番に行かなきゃいけない!」と何度も繰り返していた。
「じゃあ何時に起きれば間に合うのか?」と尋ねると、彼女は一瞬だけ考え、こう答えた。
「6じ45ふんだと ごはんたべるのが おそくなるから、6じはんにおきるの!」
その答えに、私は静かな衝撃を受けた。
たとえ拙い言葉でも、そこには“逆算”が存在していた。
いつもは親に促されるだけの朝支度を、今回は自分で設計しようとしている。
これは、まぎれもなく“時間を管理する意志”の芽生えであった。
初めての目覚まし時計デビュー
そして、彼女はついにこう言った。
「めざまし かけて。6じはんに おとが なったら、おきられるとおもう」
これまで、目覚まし時計を使ったことは一度もなかった。
朝は親が声をかけて起こすもの。あるいは、自然に起きるかのどちらかだった。
それが今回は、自らの希望で“目覚ましで起きたい”と言い出したのだ。
これを成長と呼ばずして、なんと呼ぼう。
娘は、自分の「やりたい」を実現するために、自分で“起きる”という行動まで設計しようとしている。
こういう小さな自立の積み重ねが、きっと人を大きくしていくのだろう。
起きられるかどうかより、「起きたいと思ったこと」が大切
もちろん、「本当に起きられるのか?」という不安はある。
が、それ以上に「起きられなかったとしても構わない」と思っていた。
今回のキーポイントは、“目覚ましで起きることができるかどうか”ではない。
“目覚ましで起きると、自分で決めたこと”が何より尊いのだ。
自らの欲求と目的を結びつけ、それに向けた行動を計画したという事実。
5歳にして、それを自発的にやったという点に大きな意味がある。
そう、たとえ二度寝したとしても、もうこの時点で十分すぎるほどの“前進”なのである。
果たして、明日の朝、彼女は無事に目覚めることができるのだろうか。
目覚まし時計の音でパッと飛び起きるのか、それとも二度寝してしまうのか…。

✅「自分で起きる!」を支えるための親のチェックリスト
子どもが自発的に「起きる」と言い出した時、親にできることは「準備」と「伴走」である。
以下のような声かけが、子どもの自立心をより高める手助けになるだろう。
⏰「何時に起きたい?」と一緒に逆算してみる
🔔「目覚ましの音、どれにする?」と選ばせてみる
🍽「早く起きたら、どんな朝になるかな?」とイメージさせる
🙆♂️「起きられたら教えてね。楽しみだね」と励ます
💤「起きられなくても大丈夫。やろうとしたことがすごい」と伝える
結果ではなく、“意志”を尊重すること。
それが、子どもにとっては大きな自己肯定感となって返ってくる。
(おまけ)よくある3つのナゾ
あとがき:自立は、こんなところから始まる
“自分で起きる”というたった一つの行動にも、たくさんの感情や成長が詰まっていた。
やりたいことのために、起きる時間を決めて、目覚ましをセットして、期待と不安を胸に眠りにつく。
それはもう、小さな社会人である。
娘はまだ5歳だが、この日の夜だけは、“未来”の背中を見た気がした。
明日、もし寝坊したとしても、それはそれでいい。
「やってみた」という経験が、彼女を一歩先へ連れていく。