【父親の休日】小金井公園のソリ滑りと2.4kmの自転車修行。子供の無限体力に付き合う、親の限界突破術

「せっかくの休日、子供と全力で遊んであげたい」。
そう思う父親は多いはずだ。

だが、その純粋な愛情とは裏腹に、子供の無限の体力は、我々おっさんの有限なHPを容赦なく削り取っていく。
この記事は、小金井公園を舞台に繰り広げられた、ある父娘の、遊びという名の過酷な修行の記録だ。

そして、体力の限界を超えた先に見えてくる、親子の幸福度を最大化するための、極めて実践的なサバイバル術でもある。この記事を読めば、あなたの次の休日は、ただ疲れるだけでなく、最高の思い出になるはずだ。

目次

遊びの覚悟は、いつも裏切られる

週末の朝。今日は、小金井公園へ行く。その目的はただ一つ。先日購入したプラスチックのソリで、芝生の丘を滑り倒すことだ。
「せっかく持ってきたんだから、やらなきゃな」
そう自分に言い聞かせ、公園の広大な芝生広場へ向かう。遊びの覚悟は、してきたつもりだった。子供と遊ぶということは、すなわち自分自身の体力を捧げることに他ならない。それは、父親としての宿命であり、喜びでもある。

だが、その覚悟は、いつも心地よく裏切られる。
「いっしょにいこう!」
娘の、一点の曇りもない笑顔と歓声。その声に背中を押され、ソリを片手に丘を登る。そして、滑る。また、登る。滑る。滑る。滑る…。

気づけば、回数はもうわからない。7回か、8回か。いや、とっくに二桁に突入しているだろう。娘は「ひとりですべる!」と高らかに宣言し、自ら丘を駆け上がっていく。私の役割は、彼女が滑り降りたソリを回収し、再び丘の上まで運び、そして滑り始めに、そっと背中を押してやることだけ。単純な、しかし無限に繰り返される、恐るべきループ作業だ。

ふと、周りを見渡す。ソリで滑っている人間は、子供も、そして勇気を出して一緒に滑っている大人も、例外なく、全員が最高の笑顔を浮かべている。

(どうせなら、俺も滑りたい…)
そう思ったが、娘の「もう一回!」という声に、その淡い願望はかき消される。そうだ、今日の俺は、プレイヤーではなく、サポート役に徹するのだ。

しかし、ついに限界が来た。娘の無限ループにではなく、俺の「自分も楽しみたい」という欲求に。
「よし、最後は一緒に滑るぞ!」
「いいよ!」
娘の快諾を得て、二人で小さなソリに窮屈に乗り込む。そして、丘の上から、一気に滑り降りる。

「わーーーーーーーーーーーっ!」

頬を切り裂く風。地面の凹凸がダイレクトに伝わる、原始的なスリル。そして、背後でキャッキャと笑う娘の体温と声。
ああ、やっぱり。
一人で滑らせる100回より、一緒に滑る1回の方が、何倍も楽しいじゃないか。

それは運動ではなく、もはや修行だ

ソリ遊びという名のウォーミングアップを終えた後も、娘のエネルギーは全く尽きる気配がない。ターザンロープ、ブランコと、園内の遊具をテンポよく制覇していく。
そして、最後にたどり着いたのが、サイクリングコースだった。

補助輪なしの練習も、頭をよぎった。だが、今の私に、腰をかがめて自転車を支えながら走り続ける体力は、残されていない。今日は、補助輪ありで、園内のサイクリングコースを平和に回る。それが、賢明な判断のはずだった。

だが、これもまた、甘い見立てだった。
1周600メートル。娘の、安全運転すぎるほどのゆっくりとしたペースに合わせて、私は横を並走する。それは、サイクリングというより、もはや軽いジョギング、いや、精神修行に近い。
一周、また一周。景色は変わらず、ただただ、自分の呼吸音と、娘がペダルを漕ぐ「カラカラ」という音だけが響く。

気がつけば、4周目。合計2.4キロ。
「これはもう、運動じゃなくて、修行だな…」
苦笑いを浮かべながら、それでも足を止めない。なぜなら、娘は、驚くほど真剣な顔で、ペダルを踏み続けているからだ。彼女にとっては、これもまた、大好きな「遊び」の一つなのだ。

「そろそろ、休憩にしないか!」
ついに、私の方からギブアップを宣言する。
「おとうさん、つかれた?」
娘が、少し心配そうな顔でこちらを見る。
「ああ、さすがに、だいぶ疲れたな…」
その言葉に嘘はなかった。

コースの脇で腰を下ろし、持ってきたお菓子を一緒に食べる。糖分が、疲弊した体に染み渡っていく。
「よし、じゃあ最後に、ふわふわドームだけやって、おしまいにしよう!」
「うん!」
まだ遊ぶらしい。しかし、「ふわふわドーム」は、親にとっては最高の「休憩スポット」だ。子供が勝手に跳ね回っているのを、ただ座って眺めているだけでいいのだから。その甘い誘惑に、私は抗えなかった。

ひとしきり遊び切り、公園を出る。ここから、今日の第二ラウンドが始まる。
歩いて向かうは、「お風呂の王様 花小金井店」。
以前、同じコースを辿った時は、移動中に娘はベビーカーで眠ってしまっていた。だが、今日の彼女は違う。文句も言わず、自分の足で、温泉までの結構な距離を、しっかりと歩き通している。その小さな後ろ姿に、確かな成長を感じて、少しだけ胸が熱くなった。

体を洗い、露天風呂の茶色い湯に浸かる。天然温泉が、酷使した筋肉を、じわじわと癒していく。
「あー、極楽だ…」
そう呟いた、その時だった。
娘が、一点を見つめて言った。
「あそこにはいりたい!」

指差す先には、壺湯
三つしかない、一人用の、あの特別な湯船だ。そして、当然のように、全て埋まっている。

ここから、新たな戦いが始まった。
次に空く壺湯を、誰よりも早く確保するための、無言のポジション争いだ。
私たちは、二人並んで、仁王立ちで、壺湯に入っている大人たちに、強烈なプレッシャーをかけ続ける。
(そろそろ出ませんか…?子供が、こんなに見つめてますよ…?)
そんな、心の声が、届くはずもない。

大人が一人で入っている二つの壺。中々、空かない。
のぼせてきたので、一旦湯船から出て、座って待つ。忍耐だ。
そして、ついに、その瞬間は訪れた!
「空いた!いくぞ!」

喜び勇んで壺湯に足を入れると、予想外の感覚が私を襲った。

ぬるっ。

いや、ぬるい。想像していたよりも、ずっと温度が低い。
ああ、なるぞ。だから、前の人はあんなに長く、気持ちよさそうに入っていられたのか…。熱い湯が苦手な人にとっては、まさに極楽の「不感の湯」というわけだ。納得した。

娘と二人で、せーので壺湯に入ると、ザバーッ!と、ぬるいお湯が大量に溢れ出す。それが面白いらしく、娘は「もういっかい!」と、出たり入ったりを繰り返す。その笑顔を見ていると、お湯の温度など、どうでも良くなった。

帰りの西武新宿線の車内は、幸いにも空いていた。
娘の目は、もう半分閉じかかっている。口からは、ベロが少しだけ、だらしなく覗いている。
「寝るな、寝るなよ…」
ソリと大荷物を抱えた私に、もう彼女を抱っこして帰るだけのHPは残されていない。そう心で念じるが、願いは届かず、家に着く直前、彼女は静かに眠りに落ちた。

なんとか叩き起こし、最後の力を振り絞って歯を磨かせ、布団に寝かせると、彼女は文字通り「バタン」という音を立てて、一瞬で眠りの世界へ旅立っていった。

一人、リビングに戻り、今日一日を振り返る。
「あー……疲れた」
それが、偽らざる本音だ。
机の上には、娘が遊び疲れて放置した、ハッピーセットのおまけのリカちゃん人形が転がっている。私はそれをそっと手に取り、すでに家にあった、別のリカちゃんの隣に、並べて置いてやった。

おもちゃも、思い出も、そして、私の疲労も。
今日また、一つ、増えた。

明日からできるアクションプラン

子供との全力の休日は、喜びと疲労が常にセットだ。このトレードオフを、より「喜び」の側に傾けるための、父親向け実践プランを紹介する。

✅ 遊びの「主導権」を、意図的に放棄する。
「次はこれをしよう」と親が計画するのをやめ、子供の「やりたい!」に徹底的に付き合ってみる。予定調和を壊すことで、親の想像を超えた、面白い展開が待っていることがある。

🟡 自分の「楽しみたい」という気持ちを、正直に伝える。
「お父さんも、一緒に滑りたいな」「一緒に競争してみないか?」と、自分の欲求を伝えてみよう。親が本気で楽しんでいる姿を見せることは、子供にとって最高の教育だ。

🟢 「休憩」を、遊びのイベントとしてデザインする。
「疲れたから休む」ではなく、「ここらで、秘密のおやつタイムにしようぜ!」と、休憩自体を楽しいイベントに仕立て上げる。特別なお菓子を用意しておくだけで、子供の満足度は格段に上がる。

🔵 一日の終わりに「温泉・銭湯」をセットする。
これは最強のソリューションだ。遊び疲れた体を癒し、親子で裸の付き合いをすることで、特別な会話が生まれる。そして何より、子供の寝つきが、驚くほど良くなる。

(おまけ)よくある3つのナゾ

子供と一緒に全力で遊ぶと、親はどれくらい疲れますか?

あなたが想像している、その3倍は疲れると思ってください。翌日の筋肉痛は確定です。しかし、不思議なことに、子供の「きょう、すっごくたのしかったね!」という寝る前の一言で、その疲労はなぜか8割方回復します。残りの2割は、気合で乗り切りましょう。

ソリ遊びって、何歳くらいまで楽しめるもの?

対象年齢は、3歳から永遠です。子供はもちろん、大人も童心に返って楽しめます。ただし、大人が本気を出すと、プラスチックのソリが体重に耐えきれず、真っ二つに割れる可能性があります。ご注意ください。あと、腰も。

壺湯って、なんであんなにぬるいことがあるの?

温泉施設によっては、様々な泉質や温度の湯船を用意しています。特に壺湯は、長く浸かってリラックスできるよう、意図的に温度を低めの「ぬる湯」に設定していることが多いです。熱いお風呂が苦手な子供や、じっくり考え事をしたい父親にとっては、最高のオアシスと言えるでしょう。

ふりかえりと、すこしだけ心のメモ

休日を、子供のために捧げ切った、まさに「父親の鑑」のような一日だ。素晴らしい。ソリ、自転車、そして温泉と、子供が喜ぶ要素を完璧に押さえている。

特に、娘の「一人でやる!」という自主性を尊重しつつも、最後には「一緒に滑る」という、親自身の楽しみも確保した点は、非常にバランスが良い。

唯一、改善点を挙げるとすれば、私の「体力」だろうか。BCAAやプロテインバーなどを持参し、「修行」をより快適なものにすることをお勧めする。

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