雨の日、家風呂が使えず銭湯へ
1週間がようやく終わった。
定時で帰れて、残業もないはずなのに、どこかスッキリしない金曜日。
週末を迎える高揚感も薄く、肩の力が抜けるだけの夜。
洗濯物は浴室乾燥機にかけていた。つまり、今夜は家の風呂が使えない。
そうなると、選択肢は一つだ。銭湯へ行こう。
向かったのは、いつもの天神湯。
準備万端、いざ出発…のはずが、玄関を出た途端にポツポツと雨粒が落ちてきた。
「あー、やばいかも」と思った瞬間、娘が言った。
「だいじょうぶだよ。いこ!」
その一言で、腹は決まった。風呂はもう使えないし、気合いでGOだ。
自転車をこぎ出すと、思ったより雨脚は強くなく、少し濡れた程度で目的地に着いた。
8歳になったら一人で入りたい|子どもの成長と親の心構え
風呂場では、今日に限って垢すりタオルを2枚持ってきていた。
娘の分も用意して、泡をたっぷり立てて一緒に体を洗う。
「ほら、こうやってごしごしすると気持ちいいぞ」
そんな父の説明もどこ吹く風、彼女はお湯の温度や泡の量に興味津々。
湯船に浸かってほっとひと息。
そのとき、娘がぽつりと言った。
「わたしね、はやくしょうがくせいになりたい。8さいになったら、おとうさんのうしろをじてんしゃでこいで、せんとういくの。ひとりでおふろはいるの。そとでまっててね!」
そうか、そんなことを考えているのか。
「お父さんと行って、お父さんとは別々に入る」──なんともいじらしくも、頼もしい発想だった。
でも、それを聞いた瞬間、胸の奥がきゅっとなった。
東京都の条例では、7歳以上は男女混浴ができない。
つまり、あと1年半ほどしか、一緒にお風呂に入れない。
逆算してみると、1年半=約78週間。
毎週末1回行ったとしても、あと78回。
体調不良や雨、予定がある日を差し引けば、現実的には50回もないかもしれない。
そう考えると、一回一回がものすごく貴重に感じられる。
「いつか」じゃなくて、「今」をちゃんと
いまはまだ、娘は体をうまく洗えない。
背中を流してあげると、「あーそこそこ」と笑いながら目を細める。
髪の毛だって、自分で乾かすのは無理だ。タオルでわしゃわしゃやっても、後頭部がびしょびしょだったりする。
でも、いつかはそれを自分でやるようになる。
そして、ひとりで番台を通って、別々の暖簾をくぐる日がやってくる。
それは誇らしくもあり、少しだけ寂しい未来。
子どもの成長は、こちらの準備とは無関係にどんどん進んでいく。
だからこそ、「また今度ね」ではなく、「今この瞬間」を丁寧に味わっていきたいと思った。
そして私は、あと何回この湯船で、娘と肩を並べて座れるのだろうと、湯気の向こうをぼんやり見つめていた。
湯上がりの牛乳と、ちょっとした成長のしるし
風呂から上がったあと、私は牛乳、娘は飲むヨーグルト。
でも娘は「おとうさんとおなじの、のんでみたい」と言って、牛乳にも挑戦。
とはいえ、ひとくち飲んで「うーん」と言ってすぐにヨーグルトへ逆戻り。
まあ、焦らなくていい。
たくさん飲めるようになって、元気に大きくなってくれたらそれでいい。
牛乳も、自転車も、そしてお風呂も──全部、ゆっくりでいい。

銭湯時間を楽しむためのチェックリスト
家のお風呂が使えないとき、慌てないための準備メモです。
✅ 子ども用の垢すり or ボディタオル
✅ シャンプー・ボディソープ(使い慣れたものがベター)
✅ 替えの下着・タオル(2枚あると安心)
✅ 湯上がりの飲み物(冷たいものと温かいものを両方想定)
✅ 自転車での移動ならレインカバー or タオルを一枚多めに
(おまけ)よくある3つのナゾ
ふりかえりと、すこしだけ心のメモ
“あと50回”と数えてしまうと、寂しさが先に立つけれど、逆に言えば“あと50回もある”とも言える。
きっとこの先、娘のほうが先に「もういいや」なんて言うかもしれない。
でもその時は、こっそり牛乳を一気に飲み干してやろう。
「お父さん、すごいね」と言われるその日まで、湯船での小さな勝負を、まだもう少しだけ楽しんでいたいと思う。